オピニオンリーダーの為末大が聞き出す Tリーガー・水谷隼が抱える課題
5歳で卓球を始めて24年…その間、プロ卓球選手の水谷隼は国内外で数々の輝かしい成績を挙げ、2016年リオデジャネイロ五輪では悲願のメダルも掴み取った。現在は2020年東京五輪での金メダル獲得を目標にすえるが、昨年10月にはもうひとつの夢だった卓球新リーグ「Tリーグ」に参戦するTリーガーともなった。新リーグの船出は好調だが、改善や工夫をすべき点はまだある。リーグナンバーワンの人気を誇る「木下マイスター東京」に所属する水谷選手は何を課題と感じているのだろう。スポーツをはじめ幅広い分野で独自の見解を発信する為末大が尋ねた。
課題1:チームによる集客の差をどう埋めるか
為末:2018年10月24日、Tリーグは両国国技館で華々しく開幕しました。実際にリーグが始まってみて手応えはいかがですか。
水谷:レギュラーシーズンは今年2月までなので、ちょうど今、シーズンの半分が過ぎたというところです。予想以上の盛り上がりを感じます。特に僕が所属する木下マイスター東京には世界でも強い日本のスター選手がそろっているので、試合のチケットはほぼ完売になります。ただ、集客状況はチームよって差を否めないので、そこを埋める工夫は必要だと思います。
為末:試合はすべて団体戦で行われますが、個人戦とは違う団体戦ならではの流れみたいなものってありますか。
水谷:それはありますね。特にTリーグでは五輪や世界選手権の団体戦とも違う独自ルールを採用していますから。例えばひとつのプレーが終わったら次のプレーを直ちに再開しなければならない「20秒ルール」というのがあったりして、試合展開がとても早いと感じます。
課題2:ホーム戦をいかに充実させるか
為末:Tリーグは地域密着型のチーム対抗戦です。ホームゲームとアウェーゲームで雰囲気の違いはありますか。
水谷:まだそこまで感じないというのが正直なところです。僕は長年、海外リーグで試合をしてきて、ホームゲームで地域の皆さんに応援してもらうのがすごく嬉しいし好きなんですけど、Tリーグは例えば木下マイスター東京のホームは東京だけど、北海道で行う試合もホームゲームだったりします。なので今後、自分たちのホームグラウンドをしっかり固めて、地域で応援されるチーム作りができればと考えています。
為末:まだ1年目ですからね。昨年、サッカーJリーグが開幕25周年を迎えましたけど、応援する側も地域に卓球チームがあると認識するまでにはもう少し時間が必要かもしれません。ちなみに今、試合会場に足を運んでいるお客さんは大半が卓球ファンですよね。それに加えてこの先、どんなお客さんに試合を見に来てほしいですか。
水谷:僕と同世代のお客さんをもっと増やしたいですね。現状、卓球を見に来るお客さんは小中高校生と年配の方が多く、20〜30代がものすごく少ないんです。今、僕は29歳ですけど、そのあたりの世代が増えるともっと活気が出ると思うので、そこも大きな課題だと思います。
課題3:応援スタイルをどう定着させるか
為末:他にも課題はありますか。
水谷:たくさんあるんですけど、応援の仕方が定着していないというのも感じますね。特に卓球の試合を初めて観戦する方は、どういうふうに応援していいのかわからないという戸惑いを感じます。
為末:それは卓球の応援文化的なことが原因ですか。
水谷:それもあると思うし、日本人のシャイな気質もあるのだと思います。
為末:こういう仕掛けや道具があったら応援が盛り上がるんじゃないかというものは何かありますか。
水谷:そうですねぇ、卓球では持ち込みが禁止されている応援グッズも多く、楽器や笛などの鳴り物はダメなので、応援は基本的に声なんですよね。
為末:ラリー中は仕方ないけど、コートチェンジや勝った瞬間などは「ワーッ!」と盛り上がりたいですよね。
水谷:チームごとに応援歌はありますが、これもまだ定着していません。
為末:演出の面で、もし何でもやっていいよと言われたら、水谷選手はどんな演出をしますか。
水谷:僕はプロレスが好きなので、プロレス風にしちゃうかな。試合前に相手選手とマイクパフォーマンスをするとか。選手同士は仲がいいので、わざとなじりあいみたいなことをして、会場を沸かせることはできると思います。これ、卓球でやった人は誰もいないと思います。
為末:面白いですね。卓球に限らず、ほとんどのスポーツで見たことありません(笑)。
水谷:やはり会場に足を運んでくれた皆さんに楽しんでもらって、リピーターになってもらうことがすごく大事です。もちろん選手一人ひとりがレベルの高い試合をすることが先決ですが、それ以外にもエキシビションの時間を設けて、もっとショー的なプレーを見せていくのもありだと思います。卓球選手は講習会やイベントなどでパフォーマンスを披露する機会がよくあって、時には1,000人くらいの観衆の前でヘッドマイクを着けラリーをしながらトークをしたり、ちょっと演技を交えて笑いを取ったりしています。そうすると自然と歓声が上がり会場の雰囲気が盛り上がるんですよね。それと似たようなことをTリーグでもやっていけたら面白いんじゃないかなと思っています。
為末:ソーシャルメディア上の演出も上手く使えるといいですよね。
水谷:その観点で言うと、T リーグは動画共有コミュニティの「TikTok(ティックトック)」と連携していて、これが若い世代にとても人気があります。そうした若い世代が好むツールをどんどん取り込んで行くことも必要だと思います。
(次回に続く・・・)
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