代表選手の駆け込み寺!? 田村淳が切り込む「ドリブルデザイナー」とは…
華麗なドリブルで相手選手を抜き去り、ゴールを決める…プロサッカー選手たちがスタジアムを沸かせるその舞台裏で、彼らにドリブルを指導する存在があるという。それはチームのコーチでも、監督でもない。日本代表やJリーガーたちが、ドリブル技術向上のためだけにその指導者のもとに集う。彼らが頼りにするのは「ドリブルデザイナー」という、世界でただひとつの肩書を持つ、岡部将和さんだ。
ドリブルを徹底的に理論化し「どんな人でもドリブルができるようになる」と断言する岡部さんの頭の中を、運動音痴を自認する田村淳さんが覗いてみた。
世界でただひとりのドリブルデザイナー
田村:岡部さんは、サッカー選手なんですか。
岡部:いえ「ドリブルデザイナー」ですね。
田村:そんな職業ある!?
岡部:ドリブルで相手を「抜く」ときの感覚を言語化して、たまたま「抜けた」ではなくいつでも確実に「抜ける」方法を見つけて教えるのが仕事です。
田村:ドリブルの感覚を言語化するってどういうことですか。
岡部:単純な話でいうと、例えば相手がボールを取りに来るとき、相手の片足を伸ばした距離よりも遠い場所にいれば絶対に届かないですよね。そうした間合いの感覚を理論化しています。
田村:生徒は子どもが中心ですか。
岡部:子どもから、Jリーガー、日本代表まで様々です。
田村:え!? プロがドリブルを教わりに来るんですか。たとえばどんな選手に教えたんですか。
岡部:宇佐美選手や原口選手、乾選手などですね。もちろん感覚的なプレーだけでも非常に高いレベルにいる選手ですが、彼らにもそれぞれ苦手とする「形」があります。いつも同じような局面で、ボールを失ってしまうとか。そこから一歩先に行くためのサポートをしました。
田村:感覚の限界を、理論で越えようとしているんですね。確かに今までパスをしていたような場面でも、ドリブルで仕掛けるという選択肢が増えるとプレーの幅も広がりそう。
岡部:そうですね。特に今はサッカー界全体に少しずつデータ重視の流れが来ているので、関心を持ってくださる選手が増えています。
2500万回再生されたFacebook動画が、道を切り拓いた
田村:なぜドリブルデザイナーを目指そうと思ったんですか。
岡部:好きなことを仕事にして生きて行きたいなと思ったんですよね。まずサッカーが好き、その中でもドリブルが好き。僕は昔から体が華奢で、選手時代は体重も50kgしかなかったのでずっと相手に当たられないドリブルの方法を考えながらプレーをして来たんです。サッカーからフットサルに転向して、子どもたちへの指導もしていた頃、自分が教えたことを相手ができるようになるのが嬉しい、という気持ちを感じるようになり、より専門性の高いドリブルの指導者になろうと。
田村:まだ世の中にない仕事ですよね。不安はなかったんですか。
岡部:根拠のない自信がありましたね。自分より熱意のある人がいないなら、自分が一番になれると思っていました。
田村:どうやって自分の活動を広めて行ったんですか。
岡部:ドリブルを専門に教えるようになってから4年くらいで、「ドリブル論」を確立しました。Facebookにその動画を上げたらけっこうバズって。そこから連絡をくれたのが、日本代表選手だったんです。
田村:それはびっくりしたんじゃないですか。
岡部:何かの詐欺なんじゃないかと思って「やばそうだったら警察呼んで」って待ち合わせ場所の裏で奥さんに控えてもらっていました(笑)。
田村:動画の再生数はどれくらい。
岡部:最初は10万~20万くらいだったかな。その次の動画は2500万とか。
田村:2500万!? Facebookでも100万行ったらすごいのに、桁違いですね。
岡部:同じタイミングでバズったピコ太郎さんには負けてるんですけど(笑)。
ドリブルを通じて伝えたいチャレンジ精神
田村)そんなに広まっても、未だに岡部さんしかドリブルデザイナーがいないということは、やっぱり誰にでもできることじゃないんですね。
岡部)僕としては、ドリブルの技術だけではなくてメンタルの部分も変えたいと思って指導をしているんです。パスよりも取られるリスクが大きいので、それを超えて挑戦する勇気がとても重要なんですよ。
田村)そっか。ミスになるくらいならパスを選択する選手が多いと。
岡部)そうです。でもそうした局面でドリブルを選択して、個の力で突破することができたら、チームへの貢献にもつながる。僕のドリブル指導を通じて、その勇気を与えることができたらと思っています。
田村:やっぱりまだまだ日本にはドリブルする選手は少ない…。
岡部:そうだと思いますね。能力はあっても、失敗して叩かれることを恐れる選手は多いと思います。でも彼らのプレーをテレビで見た子どもたちは、そのプレーがベストだと思ってしまうので、ますますドリブルをする選手が減って行ってしまうという危機感も僕の中ではあります。
田村:岡部さんの指導を受ければ、誰でも伸びるんですか。
岡部:伸びます。意思があれば…。
田村:意思…もっとうまくなりたいという意思ですか。
岡部:そうです。でもそこには、自分の壁にぶつかるという原体験が必要なのかなと思います。
田村:漠然と「うまくなりたい」だけではだめなんですね。
岡部:なので、指導している選手の実際のプレーを見て、ドリブルで抜けそうなところで、パスを選択したシーンがあったら、「ここ、逃げたよね」と録画して見せたりもします。
田村:選手のプレースタイルに影響を与える怖さを感じることはないんですか。
岡部:僕の指導を生かすかどうかも本人の意思です。だけど必ず選手に伝えていることがふたつあって、ひとつ目は「もし、その挑戦のせいで選手人生が終わることになるなら、最初から先は短いんじゃないか」。そしてふたつ目は「もし君がこの先選手を引退しても、その人生に関わり続ける」ということ。
田村:岡部さんの人生観がそのまま指導につながっている感じがするな。俺、人生観かけてタレントやってんのかなあ。
(次回に続く…)
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