「勝負の世界に決まり事はない」、ラグビー日本代表・山田章仁の世界観
4年前、南アフリカ戦の大金星を境に注目度が一気に上昇したラグビー日本代表は2019年、自国でついにワールドカップを迎える。
当時の日本代表にも選出され、今年チーム最年長でワールドカップイヤーを迎える山田章仁選手は、7年前から子どもたちにラグビーを教えるクリニックを開催、競技の普及に励んでいる。個人として、日本代表として、伝えて行くべきラグビーの価値とは…。
ラグビーとの出会い、そしてその歩みをともに振り返る。
全員がラグビーを理解しないと勝てない時代
二人の姉に囲まれて育ったので、優しい性格の子だったようです。親としては「なにか激しいスポーツを」と心配して、僕を地元のラグビースクールに通わせた。それがラグビーを始めたきっかけです。
自分が走ってトライをすると、見ているチームメートが喜んでくれる。それが嬉しくてハマって行きました。サッカーや野球もしてみたけど、あまりピンと来なかったようで続きませんでしたね。
ポジションは昔からバックスが中心でした。簡単に言うと、走って点(トライ)を取る役割です。チームメートに「生かされる側」ですね。スタンドオフ…言わば試合をコントロールする司令塔としてプレーしたこともあります。基本的にラグビーはポジションによって、役割やプレーヤーの得意分野が明確に分かれているスポーツなので、極論すると司令塔の指示に従って各々がプレーをしていればそれで良かった。
しかし最近はレベルが上がり、全員が高いレベルでラグビーを理解していないと勝てないようになって来ています。司令塔として味方を「生かす側」の視点を持てたことは今も強みになっています。
あえて居心地の悪い環境に自分を置く
高校まで福岡で過ごし、大学から東京へ行き、オーストラリアへのラグビー留学も経験しました。段々自分の世界が広がって行く感覚があって、面白かったですね。特にオーストラリアでは、自分の強みを理解してそれをアピールする選手が多く、刺激を受けました。
「同じ努力をするなら、それを見せないとダメ」と言われたこともあります。日本では逆に、陰で努力することが美徳とされていますよね。僕もそういうタイプだったので、大きなカルチャーギャップでした。チームメートひとりひとりが違う個性を持っていることが当たり前で、そのことを認め合う空気感は新鮮でした。
選手の個性を生かすためには必ずしも教科書通りのプレーでなくても良い、と言う発見もありました。日本ではそれまで、定石通りのプレーを良しとして育って来たので、留学をきっかけにラグビーの考え方が自由になった気がしています。
新しい環境に飛び込んで、その場に適合し成長して行くプロセスは、小さい頃から好きみたいですね。僕は小学生のときに「移籍」を経験しているので(笑)。もっと高いレベルでラグビーをやりたくて、元々入っていたチームの競合チームに移ったんです。ライバルが増え、「もっとトライを取りたい」とハングリーな気持ちになったのを覚えてます。当時から、「居心地が悪い場所に自分を置く」ことを意識しています。
子どもたちにはノーサイドの精神と国際感覚を
僕がラグビーを通じて感じたこと、学んできたことを少しでも子どもたちに伝えたい。企業に就職せずにプロになると決めた頃から、その責任を感じていました。2013年からは自分でラグビー・クリニックを企画して、子どもたちにラグビーを教えたり、「日本と世界とのつながり」と言うテーマで講義をしたりしています。
ラグビーはグローバルなスポーツなので、世界中どこに行ってもラグビーを通じて友達ができる。その代わり、文化の違う環境の中でどうやって自分のアイデンティティをアピールして行くべきなのかを考えないと埋もれてしまう。こうした、僕が海外で学んだことを、そのまま下の世代にも伝えて行きたい。
自分の子どもにも早いうちから国際感覚を身につけて欲しかったので今、ハワイで教育を受けさせることができているのは、親として良かったなと思います。将来、英語で恋愛話されても話せるか不安ではありますが(笑)
考えてみるとラグビーはすごく特徴的な精神文化を持っていますよね。試合中に荒々しくぶつかり合っていた相手でも、笛が鳴った瞬間から「ノーサイド」。ロッカールームに引き上げながら笑顔で会話することもあれば、そのまま飲みに行くこともある。
僕はそうしたラグビー文化が好きですけど、日本では不思議がられることも多いんですよね。でも、同じような空気が他のスポーツにももっと広がっても良いんじゃないかなと思っています。もちろん見る人にも。「勝負の世界なんだからこうあるべき」みたいな決まりごとなんて本来はないので、スポーツの見方そのものが日本でも変わって行ったら良いんじゃないかな。
異業種、別スポーツとの交流も大事
格好いいことを言ってしまっていますが、僕はスポーツしかやって来ていないからスポーツのことしか語れない。そこで視野が狭くならないように、異業種の方ともコミュニケーションを取るようにしています。
よくコワーキング・スペースに行って、そこを訪れるビジネスマンや、クリエイターさんと会話するんです。このデザインが格好いいとか、じゃあ僕の写真を使ってこんなものを作ろう、とか。
そこには大学時代の友人との出会いも大きく影響しています。ラグビーをやっていない友人と話をする中で刺激を受けることが多かった。プロになった今でもそうした刺激を大切にしたいですね。これは競技においても同じで、いろんなスポーツに挑戦することでパフォーマンスが総合的に高まって行くこともあると思うんです。
僕はアメフトもやってみたいなと思って、1年間ラグビーとアメフト両方の試合に出ていたこともあります。日本ではひとつのことをずっと続けて行くのが「素晴らしい」という考え方がまだ強いかもしれないけど、僕は自分のクリニックの中でも「やってみたいことはやってみたら良い」と子どもたちに話しています。僕の姿を見て、「あ、違うことやっても良いんだな」って思ってもらえたら嬉しいですね。
<写真・撮影:平間喬>
(次回に続く・・・)
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