W杯イヤーに思う、山田章仁が日本に伝えたいラグビー代表チームの真髄
南アフリカ戦の歴史的勝利から4年…ラグビーは「HAKA(ハカ)」、「ルーティン」など、誰にでもわかりやすいワーディングとともに、ラグビーはその人気や知名度をコツコツと積み上げてきた。しかしその裏側で、あの日の熱狂を持続させる難しさを痛感する年月だったかもしれない。
前大会同様、今年も代表入りが見込まれる山田章仁選手は、ワールドカップイヤーに何を思うのか…。現在の日本代表だからこそ伝えられる「ラグビーの真価」がそこにあるという。スポーツアナウンサー淡輪ゆきが、その真意を聞き出す。
チームの成長を見続けてきた山田章仁の4年間
4年前に比べて、代表チームはすごく変化しています。戦い方でいえば、ボールを持つ時間がかなり減りました。ボールを持たずにゲームを動かすには、組織全員が高いレベルの戦術を理解して動くようにならないといけないので、ある意味全員がスタンドオフのようなゲームメークをする意識で試合に臨んでいます。
組織でいうと、2015年はどちらかというとトップダウン型だったのが、今はボトムアップ型になっている。どちらが良い、悪いではないですが、ずっと代表チームを見ている僕からすると新鮮だし、楽しいですよ。
選手個人のレベルはもちろんプロとしての意識も高まっています。メディアからの取材も増えたし、注目度の高まりを感じると同時に、みんなが代表としての責任をより強く感じるようになって来たんじゃないかな。
スーパーラグビーへの参戦の影響もあって、「日本のラグビーを世界にどうアピールするか」という視点をみんなが常に持つようになりましたね。それはグラウンド外の振る舞いにも表れています。簡単なことだと、ゴミを拾うとかね(笑)。
それは情報発信に対する姿勢にもつながっていて、4年前はどうしても受け身でしたよね。正直、急に注目されて、こちらも準備ができていない状態でした。ですから今年はワールドカップ前から積極的に情報発信をして、大会前からラグビーへの関心を高めてもらえるよう心がけています。開幕の時期までには、1日1回はラグビーがテレビで観られるようになっていたら最高ですよね。
現代表最年長者の役割とラグビーの見どころ
(最年長者としての役割を)あまり意識して伝えているわけではないですね。正直(若い選手も)上から言われても響かないでしょ(笑)。 それよりは感じ取ってもらえる環境をどう作るかが、僕や他のベテラン選手に求められている役割なんじゃないかなと。今のチームには若いやつでも頼りになるし、ベテランとか新人とかはあんまり関係ないですね。
見どころは…たくさんある(笑)。野球でいうと、ラグビーはある意味でホームランがたくさんあると思うんですよね。自分はここが好き、というポイントを見つけてもらいたい。事前の情報収集なんかいらないので、まずはルールもわからないまま見て、感じたままに楽しんで欲しい。自分だけのホームランを見つけてください(笑)!
多国籍な代表チームの戦い方は日本の参考になるはず
プレー面以外で、注目して欲しいところもあります。今の日本代表は非常に多国籍なチームで、サモアやニュージーランド、トンガなど様々な国の選手が集まっています。それでいて、礼儀のような日本の美徳を大事にし、「日本のラグビーを世界にどうアピールするか」というひとつの目標に向かってまとまっている。いわゆる「グローカル」なチームに仕上がっていると言えます。
実は、僕はこうした組織のあり方そのものが、日本のビジネスの現場でも参考になるのではないかと思っているんです。多様性のある人材が、ひとつの目標を目指して一丸となることは、きっとどの組織でも必要なことですよね。海外に進出する日本企業が参考にできる部分が絶対にあるはずだと。そういった視点からも僕たちの戦い方を見てもらえたら、面白いんじゃないかなと思っています。
日本では、まだスポーツの価値が十分に認められていないんですよね。僕がラグビークリニックを通して伝えたいことって、究極「スポーツの魅力」なんです。もちろんクリニックをきっかけにラグビーに興味を持ってくれて、続けてもらえたら嬉しいですけど、別の競技に進んでもらってもまったく構わない。「スポーツ」を通じた学びが、人生を豊かにしてくれると信じているから。僕が言えたことではないけど、そういったことを伝えられる指導者が日本にはもっと増えるべきだとも思います。
現役選手の使命、そして発信力とレガシー
現役選手としては子どもたちや若い世代にラグビーを伝えて行くことで、ラグビーのすそ野を広げて行くべきだと思います。OBは、現役選手の競技環境を整えることに尽力してもらいたいかな。まだ自分がOBになるという意識はまったくないですけどね(笑)
選手が自ら積極的に発信するという文化を残したいと思っています。4年前に一番欠けていたのはその部分。でも、今年は僕たちが「こんなに情報発信をした」、その結果「こんなに多くの人がラグビーを見てくれた」、だから「次はもっとやろう!」、そのサイクルこそが『レガシー』になると思っています。
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「4年前のインパクトを持続できなかった」という周囲の評価について、真摯に反省点を話す一方、どこか手ごたえも感じていたような、山田選手の表情が印象的だった。前回大会のさらに前からラグビークリニックを自ら企画し、「伝える」という行動を取り続けてきた自負がそこにあった。4年間、代表チームの進化を見続けて来た彼だからこそ見えている代表の姿もあるのだろう。2019年を本当の意味でワールドカップイヤーにするために、本大会で彼らは私たちに何を伝えてくれるのだろうか。
インタビュー後、サポーターへのメッセージを書いてくれた山田選手は「結構いいこと書くと思わない?」と自慢げにフリップを見せてくれた。この聡明でお茶目なラガーマンから、今後も目が離せない。
インタビュアー 淡輪ゆき(スポーツアナウンサー)