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安彦 考真

2019/4/2

成功の裏には失敗がある 乙武と安彦が提唱する「失敗に拍手をする文化」

 ここまで3回に渡って伝えてきた安彦考真氏と乙武洋匡氏の対談もこれで最後となる。

 チャレンジの一歩を踏み出せない人たちの背中を押すことが目的のひとつとして存在したが、アドバイスにとどまらないふたりのブレない信念や哲学からくる深みある言葉は、「問」に対する「解」のみに終始しない。

 最終回では前回に引き続き、乙武氏が取り組む「義足プロジェクト」の裏側について、そして挑戦しきれない人々が持つ「失敗への恐怖」に焦点が当てられた。

編集者 竹中 玲央奈
㈱LinkSports
 

失敗に気をとられすぎてはいけない

―「義足プロジェクト」が周知されると、多くの人の感動を呼びました。

乙武:その反応が意外だったんですよね。僕らはまだ誰もやったことのない、前人未到のチャレンジをしていることにワクワクして取り組んでいただけなんですよ。その中で「感動しました」と言われて初めて「これって感動することなんだ、そっか!」と驚かされて。

 安彦さんの場合も、40歳を過ぎたおっさんがJリーガー目指して頑張って契約も取れて、今度は出場できるか…それも感動と言うよりはワクワクですよね。それと同じで僕自身、ワクワクしながらやっている。でも今回、クラウドファンディングをやらせていただいて、思っていた以上の2000人を超える方に応援していただいたので、すごくびっくりしたんです。多少は応援していただけたら良いなくらいには思ったんですけど、こんなにも多くの支援が集まるなんて思ってもみなかった。

 みなさん、どういう気持ちで応援してくださっているのかなと不思議に思ってたんですけど、安彦さんのチャレンジを見て逆側の立場になって、「なんか応援したいな」と思ったんです。そのときに「これか!」と思ったんですよね。そういう意味でも今回の対談はとても良い機会をいただいたなと。

安彦:確かにそれはありますね。クラウドファンディングを僕も最初にした時になんでこんなにも応援してくれるんだろうと思いました。逆に怖かったです。「(Jリーガーに)なれなかったらどうしよう」と。

 でも、そんなことを気にしてやったらダメなんですよね。「俺は自分がやりたいことをやっているだけなんだ!」と。僕は支援者がいるけど、後ろにいるのは僕が歩んだ道のところに乗っかって来ている人。突き進むべきなのは自分であることに変わらない。サポートしてくれる人たちのことを考えるのはその後だと。とは言え、応援する心理とかそういうものに対して目を向けるきっかけになったのは大きかったなと。

―そもそも挑戦というのは深いことを考えず「やりたいことをやれ」と。

安彦:結局、何かを変えたいからやっているというよりも、自分がしたいからやっているんです。あとは、本気の可視化は行動しかないと思うんです。「みんなができるわけじゃないよ」と言われるかなとは思うんですけど、でもやっぱり、本気ならすでに動いていると思うんですよ。

 動いていなければ、それは衝動に駆られているのか好奇心という部分だけだと思う。思いを深掘りして行って自分がやりたいと思えたものに出会えたらワクワクするでしょう。小さい頃に味わった、カブトムシを見つけに行くために早起きした朝の感覚。あの気持ちを、歳を重ねるごとに忘れすぎだよね、と。

乙武:それがすごく大事だし、そのワクワク感が還元されて、結果的に感動を与えるかもしれない。でもあくまでも自分の中ではワクワクなんだと。それを見た人が心を揺さぶられるというのは、やはり本人の思いがあってこそなのかなと。

―いろんな人が自覚していないだけで本当は「やりたいことがある」のかなと思うのですが、みなさん、そこを見つけられてない側面も存在する気がしています。

乙武:僕は小学校で教員を務めていた時期もあるのですが、子どもたちの成長を促す上ですごく気を配っていたのがスモールステップを用意するということだったんです。やはり誰もがメンタルが強いわけではないし、誰もがチャレンジ精神旺盛なわけでもない。その中でいきなり高い目標を掲げてしまうと、途中で心折れたり、尻込みしたりするのが一般的。

 それよりは最初の一歩を出やすいところに設定しようと。「これぐらいなら、ちょっと頑張ればできるかもしれない」と思えるくらいのスモールステップを教師の側が設定してあげて、やってみたらできた…そんな体験を積み重ねる。そして、振り返ればこれだけ大きく伸びていたよね、と結果になることが理想なのかなと思っていました。ところが大人になると、そのスモールステップを誰も用意してくれない。

 だからこそ、自分でそのスモールステップを設定していく能力が必要になると思うんですよ。それこそ安彦さんのチャレンジは本当に素敵だし、応援したいと思うけど、誰もが今ある仕事をすべて投げ売ってJリーガーになろうと思えるかといえば、そうではない。それに、思う必要もないと。

 「俺、本当はサッカー好きだったんだけど、仕事をしなきゃいけなくて、サッカー辞めちゃってたな」という人は、たとえば週末の夜とか土日を使って、社会人リーグに参戦するようになったというだけでもチャレンジだと思います。その生活をしばらく根付かせて、もうちょっとサッカーにシフトしても良いかなと思ったら、もうひとつ頻度を上げるとか。「自分がやりたいこと=あまりにも大それたこと=チャレンジ」と定義づけてしまっていると、やっぱりハードルが高くなってしまうのかなと。

失敗に拍手を送る姿勢を

―ここまで乙武さんと色々話して来ましたが、ふたりで何かプロジェクトをやってみたら面白そうです。

安彦:心の中ではやりたいことはたくさんありますけど、一番はこういう機会がたくさん増えたら良いなと思っています。僕は今までいろんな方とお話しして来ましたが、自分のことを分析してくれたり、感化されたとおっしゃっていただいたりすることはあまりなくて。この会話から生まれるエネルギーはやっぱり嬉しいなと。

 今日、話したことについて、もっと色々な人にダイレクトに伝えられるような場ができたら良いと思っています。もちろんそれを僕はサッカーを通してやって行くのはありなんですけど、ふたりでイベントをやってみるのも良いかなと。その裏には「勇気を与えたい」ということよりも、「この話を聞いてもらいたい」という部分があるのですけど…。

乙武:トークショーとか良いですね。やりたいです。あとは、この対談の読者の方にぜひオススメしたいのは、人の失敗に拍手を送る姿勢を身につけること。嫌味で拍手を送るとかではなくてね。

 なぜ失敗したのかを考えてみてください。チャレンジをしたから失敗をしたわけです。他人の失敗に対して「ナイス失敗!」と拍手を送ることで、だんだん自分自身が失敗することへの怖さも取り除かれていくのかなと思うんですよね。

 いきなり「失敗は怖くないですよ」とここから叫んでもなかなか届きにくいと思うので、人の失敗に寛容になることで、だんだん自分の失敗に対するハードルを下げることができるのかなと。

安彦:すごく素敵な環境ですよね。スポーツ界って実はそういう環境がないからプロの世界でもみんな前列に並ばないんですよね。「最初に失敗したら嫌だ」と。誰かが先にトライして失敗してくれることによって自分は成功が近づくじゃないですか。「その失敗した人がいてお前が成り立っているのに、自分はなぜそこにいかないんだ…」と思います。

 賛辞を送らず「なに失敗してるんだよ」と茶化してしまう文化は変えて行かないといけないと思います。失敗した人のその姿に対して拍手を送って「ありがとう、おかげで俺らはうまく行ったよ」という人がいないと。「できなくても良いからやってみる」勇気みたいな部分は、賞賛されるべきと思います。

乙武:僕は安彦さんのインタビューを読んだ中で好きになったポイントがいくつもあるんです。そのうちのひとつが、「フォワードとしてニアに飛び込んで「つぶれ役」になることをみんな嫌がるけど、俺はそういうことを率先してやっていかないと差をつけられない」という発言だったんですね。

 これがすごく好きです。そして今日お話ししてみて、サッカー選手としてのピッチ上のことだけじゃなくて、この方は人生全般において「自分にできることはなんだろう」とか「自分だからこそできることはなんだろう」と常に頭に入れながら動いているんだな、と感じたんですよ。

 例えば、「より高みに行くというのは本田(圭佑)くんたちに任せて、自分は10の失敗をこういう努力によって9に減らしている、8に減らしている…そんな姿を見せていければ」というのも、まさに「つぶれ役」の話と重なると思うんです。

 そうした姿勢は、安彦さんだけじゃなくて、みんなが少しずつ持てれば良いなと。今日の安彦さんの話から色々と感じられましたね。

<写真・撮影:市川 亮>

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サッカー

安彦 考真(あびこ たかまさ)

生年月日
1978年2月1日(41歳)
出身地
神奈川県相模原市
身長
175cm
体重
74kg
在籍チーム
Y.S.C.C.横浜
ポジション
FW
背番号
41

乙武 洋匡(おとたけ ひろただ)

プロフィール
大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。
卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、教育に強い関心を抱き、新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パートナー」、杉並区立杉並第四小学校教諭を経て、2013年2月には東京都教育委員に就任。
教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』は映画化され、自身も出演。続編小説『ありがとう3組』も刊行された。おもな著書に『だから、僕は学校へ行く!』、『オトことば。』、『オトタケ先生の3つの授業』など。

竹中 玲央奈(たけなか れおな)

プロフィール
㈱LinkSports スポーツデジタルマーケティング部部長。スポーツWebメディア「AZrena」や「舞洲Voice」の運営・編集とスポーツチームの管理アプリ「Teamhub」のマーケティングをメインで行う。大学時代から国内サッカーの取材活動を開始し、卒業後は数々のサッカー専門誌へ寄稿。現在も幅広く日本のサッカー現場を取材し、個人のWebマガジンで発信中。ライター/編集者/webディレクターとして、様々なコンテンツメイキングに携わっている。

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