「自分のクローンが欲しい」、ドリブルデザイナー岡部将和の夢の叶え方
世界で唯一のドリブルデザイナー岡部将和さんの指導論には、選手の成長へのシビアさと愛情が込められていた。いつか世界196カ国でドリブルを指導したいという、一見壮大すぎる夢を理路整然と話す岡部さんだが、すでに実現の糸口を掴んでいるようだ。夢の実現プランが記されているのは、大きなスケッチブック。ロジックとクリエイティビティにあふれた岡部さんの「夢ノート」を田村淳さんが紐解いて行く。
「クローンが世界の街中に表れて…」
田村:ドリブルデザイナーとしての活動は今後どのように広げて行く予定ですか。
岡部:今のままだと、単純に人が足りない、というか僕が足りないですよね。YouTubeで動画を見てもらうという方法もありますが、広く浅い指導になってしまう。僕がドリブルを通して伝えたい「チャレンジする心」といったメンタル面の指導には、動画だけでは限界があると考えています。だからやっぱりクローンが欲しいですね。
田村:クローン!?
岡部:はい、たとえばスマホをかざすとそこに僕の映像が映るARのような仕組みです。最近では、スマホなしでも映像が目の前に現れるXRという技術の開発も進んでいるので、そうした技術とのかけ合わせで、僕のクローンが街中どこでも表れて、練習ができるイメージです。
田村:すごいこと考えてるな!
岡部:例えばそれがサッカーの試合が行われる前のスタジアムで出来たら、観客のサッカーを見る目も変わってくると思うんですよ。選手にドリブルでの仕掛けを期待したりね。そうして世界中でチャレンジを駆り立てたいですね。
田村:技術と心の両方を育てていくんですね。
「夢ノート」の原点は祖父との詰将棋
岡部:実は僕のやりたいことをこんな表にまとめていて…。
田村:わかりやすくまとまってますね。これを見るだけで岡部さんが理論派だということがわかりますよ。
岡部:全部目標から逆算して考えているんですよ。いつまでに何をしたいのか、そのためにはいつまでに何をしなければいけないのか。スポーツ指導の特性上、あと2年間で身体が動く間に表現したいこと、そのあと5年間で表現したいことを分けて考えています。時期のリミットを設けるのはすごく大事ですね。
田村:こういう考え方ってどこで身につけるんですか。
岡部:僕の場合は将棋でしたね。詰みの状態から戻して行く感覚です。ひいおじいちゃんが将棋の棋士だったので、そのときの将棋小屋で祖父とよく将棋を指していました。
田村:こんなの考えたことなかったなあ。こういう夢の叶え方も教えてあげたいですよね。
岡部:これをすると、自分が今どこにいて、次に何をすべきかがわかるんです。全世界196カ国でドリブルを教えたいと思っているんですが、まずアルゼンチンとインドネシアにはもう行ってきました。僕は今、海外のトップ選手に教えるところまでできているので、その先の拡散のフェーズかな。
田村:やはり影響力のある選手を通じてドリブル理論を伝えて行くことが大事なんですか。
岡部:トップダウンとボトムアップの両方かな。トッププレイヤーからの広がりと、子どもたちへの指導という草の根の活動との両側からの浸透を狙っています。
「ドリブル屋敷」、「間合いキット」、「DDウェア」?
田村:着々と進んでますね。他にもたくさんありますけど、不思議な単語が並んでるなあ。なんですか「ドリブル屋敷」って。
岡部:いつかドリブルをエンタメ化したいなと思っていて。外国人に日本のイメージを聞くと、よく忍者が出てくるじゃないですか。忍者屋敷の中をドリブルで進んでいくみたいな。例えば、入口の隠し扉がバタンと開いて、中に入ると、今度は脇からスパイク型の障害物が出てきて、それをよけながらドリブルで進むみたいなものです(笑)。。まだイメージでしかないのですが、忍者・屋敷とかの日本伝統工芸・日本文化と、最新テクノロジーが融合した、日本らしさが詰まったエンターテイメントを創っていきたいな、と思ってるんです。
田村:急にぶっ飛んでるけど面白い! 「間合い習得キット」は…。
岡部:相手に絶対に取られない間合いを測るセンサーみたいなもので、その距離よりも近くなるとピピピッって鳴るものですね。相手との距離感を身につける練習に使えます。これは福祉にも応用できると考えています。たとえば腕に障害がある子どもは、タッチができないという理由で今まで鬼ごっこができなかったかもしれない。でもこのセンサーが鳴る位置まで近づけばタッチになるというルールにすれば、一緒に遊べるようになりますよね。
田村:もはやドリブルデザイナーの領域を超えてるな。この「DDウェア」ってなんですか。
岡部:これは、ドリブルの時の姿勢の崩れを可視化できるウェアですね。体の中心線や、肩や腕のラインに合わせて色が塗り分けられているイメージで、体がこのラインよりも傾いているから次の動きにスムーズに移れなかったというような分析ができるものです。
田村:テクノロジーとサッカーを掛け合わせてる。体重のかけ方がわかりやすそうですね。
岡部:感覚を理論化したものを体にしみ込ませるという作業なので、究極はまた感覚に戻って行くのかもしれないですね。
田村:反射のレベルになるってことか…。
岡部:そうですね。僕が持っている理論とテクノロジーをかけ合わせて、どんな人でもドリブルをマスターできるような仕組みを作ることがミッションですね。
(次回に続く…)
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