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安彦 考真

2019/3/12

安彦考真×乙武洋匡、幾多の壁を乗り越えてきたふたりが考える「チャレンジ」の真髄

 安彦考真選手は、いわゆる「強豪校」でのプレー経験がない中、40歳を前にして「プロサッカー選手」の夢を実現させ、Jリーグ最年長デビューを目標にする。これまでの波乱万丈な人生を語った中で、「影響力のある人たちとつがって行きたい」という思いを打ち明けた。

 今回、ベストセラー『五体不満足』の著者であり、小学校教員から保育園経営など多岐に渡って活動をしている乙武洋匡氏との対談が実現。

 「年を重ねてもやりたいことをやり続ける」。このマインドを持つふたりに「チャレンジ」をテーマに話を聞いた。

編集者 竹中 玲央奈
㈱LinkSports

他人に意見を求める時点でやらないほうが良い

安彦:僕は39歳で仕事を辞めて40歳でプロになろうと思い、実際に挑戦をしているわけです。ただ、ここの部分は評価してもらっている部分もありつつ、アンチがすごく存在するんです。

乙武:アンチがいるんですか。何を叩かれるんですか?

安彦:ものすごくいるんですよ。これは僕の憶測ですけど、やはり僕らの年齢って「何かを諦めた人」が多いじゃないですか。それぞれカッコ良い理由をつけて諦めたんですけど、僕がやりたいことを実現している姿を見せてしまうと、その人たちにとっては「自分が辞めた理由」を否定されたことになる。つまり、自分を正当化できなくなるんじゃないかなと。けっこう同世代に多いんじゃないかなというのもあって。だから「絶対にお前は成功するな。そうすると俺が辞めた理由が嘘だったことがバレる」と。これは仮説なんですけど。

乙武:そういう冷静な分析が、さらにアンチを燃え上がらせそうですね(笑)

安彦:それに近い話だと、チャレンジする過程で僕は本当に半分ぐらい友達がさっといなくなったんですよ。けっこう孤独だなと思って。それでも僕はやりたいと思ったのでやってきました。挑戦をするにあたって、乙武さんもいろんなことをされていると思うんですけど、何に忠実に、何をベースにいちばん頑張って来れているのか。周りのことを気にせずにやれるのは、どこをベースにされているのかをお聞きしたいです。

乙武:まずね、今回、安彦さんと対談をさせていただくにあたって、いくつかインタビュー記事も読ませていただいたんですけど、「面白いなこの人」と一気に安彦さんのファンになったんですよ。だからこそアンチが多いというのはものすごく意外だったし、今の分析を聞いて、それはそれでなるほどと思いました。その中でいきなり話の腰を折っちゃうことになるのですけど、僕は人々の挑戦に対して背中を押すということに、けっこう懐疑的な気持ちを抱いているんですよ。

 というのは僕も安彦さんと一緒で「note」を利用しているんですけど、その定期購読マガジンで「乙武質問箱」というコーナーがあります。読者の方の質問に僕が答えるというものになるのですが、たまたまそこでこの対談のためのような質問があったんです。それが「歳を重ねてからのチャレンジはやめたほうが良いのか」というものでした。

<参考URL> https://note.mu/h_ototake/n/n6a4494859355

 そこで僕が何を書いたかというと、「確率論の問題でしかないのではないか」と。「逆に言えば、若いうちのチャレンジは必ず成功するんですか」と。そんなことは決してないし、人によっては逆に歳を経てからのほうが成功することもあるかもしれない。でも、基本的には若い頃のほうが有利と言われている。だけど、所詮は確率論でしかないので。

 さっきの安彦さんのアンチじゃないけど、自分がチャレンジしないための理論武装をしたいがために、誰かに「年齢を重ねてからのチャレンジは厳しいよね」と言って欲しいだけなんですよ。そう考えると、「年齢を重ねてからはやめたほうが良いでしょうか」という質問をしている時点で、チャレンジなんてしないほうが良いと僕は思います。誰かにやめたほうが良いと言われて、やめようと思うぐらいの気持ちなら、絶対リスクを負わないほうが良い。

 失敗した時に失うものは大きいからそんな生半可な気持ちなら絶対やめたほうが良いし、「他人が止めようが俺はやるんだ!」ぐらいの気持ちがないと、チャレンジしきれないですよね。撃沈されて終わるだけです。

安彦:納得できます。聞くぐらいならやらないんですよね。ほとんどの人はもうやっちゃっているんですよ。僕は「迷い」と「悩み」の違いがあると思っています。「迷いは行動前、悩みは行動後」だと思っているんです。やはり迷って動いてない人は、いくら迷っても動かないと思うんですよ。最後の一手になるまで道を拓いている、そこまで動いている人には良いかなと思います。

乙武:リスクを考えるなとは言わないですけど、天秤にかけたら確実にリスクのほうが大きく見えるんですよ。もちろん視野の端っこぐらいに入れておくのは良いですけど、まともに向き合ったらみんなチャレンジしなくなりますからね。それぐらいの気持ちならやめたほうが良いと思います。とはいえ、チャレンジ礼賛主義ではないです。私自身はチャレンジを優先するし、チャレンジすることが好きだけれども、全員にそれを勧めるかというとそうではない。したくない人に無理やりさせる必要はないのかなと。

今の時代「チャレンジ」は本当にリスクなのか…

――先ほど乙武さんがおっしゃった「何歳でこれを始めるのは遅い、という話をしている時点で止めたほうが良い」ということになると、逆に乙武さんはやりたいと思ったことは、パッと始めてきた人生だったのでしょうか。

乙武:いちばんわかりやすいところでいうと中学校の時。バスケットボール部に入部したのですが、親からは「知っていたら止めたのに」と言われたんです。親に相談する前に入部してきたんですよ。

安彦:事後報告だったんですね。

乙武:そうなんです。だから迷わなかったし、でも本当に入部してから「俺、何しよう」と思ったんですよ。自分でも「バカじゃないか」と思いました。小学校の頃から仲良くしていた友達がみんなこぞってバスケ部に入ったので、「じゃあ、俺も」と入ったものの、「あれ、俺バスケできないじゃん」と。そこから何をしようかな、と考えたんですよね。それはそれでアンポンタンだとは思うんですけど(笑)

 でも、リスクを過剰に見積もってしまう方たちに伝えるとするなら、逆にプラスの側面に目を向けると、チャレンジは先行投資になるよと。つまりチャレンジをしない人生をわかりやすくいうと、「レールに乗る」とか「歯車になる」とか、そういう言い方になるのかもしれないですけど、それって結局、いくらでも換えの利く人材になっていくということだと思うんです。

 日本が経済的に安定していて、会社の業績も個人の収入も右肩上がりの時代ならば、チャレンジなどしなくても豊かになれた。でも2020年が終わったら、いよいよ日本の経済が落ち込んでいくのは、ほぼ確定している。その中でチャレンジをせず、人と違うことをせず、無難なレールを歩いてきた人は、言い換えれば誰でもできるポジションに立ってしまうことになる。つまり、真っ先に切られる対象になってしまうんですよね。

 これからの時代、むしろそっちのほうがリスクなんじゃないのかなと思っていて。私の小さい頃の友人で小学校6年生の時の夏休みに「俺はプロのサッカー選手になる」と言って、親元を離れて単身でバルセロナに移住した子がいました。今でいう※久保建英選手じゃないですけど、ホームステイしながら地元のクラブチームでプレーを始めたんです。とんでもないですよね。そこに関しては彼も立派だなと思ったんですけど、止めなかった親御さんも立派だなと。普通だったら絶対止められるじゃないですか。

※J1リーグ FC東京所属のプロサッカー選手。12歳でスペインの名門・FCバルセロナの下部組織に入団した。

――安彦さんは、ご両親にブラジル行きのパンフレットを親に見せたら破かれたと言っていましたね。

(リンク https://athlete-ch.sports.goo.ne.jp/athlete/article/soccer/abiko/1

乙武:そうですよね。ただ親は子どもが憎くてとか、邪魔したくて止めるとか…決してそうではない。子どものためを思って止めるわけじゃないですか。では何でその子のことを思って止めるのかというと、親御さんが生きてきた時代の常識やモノサシに照らし合わせると、あまりにリスクが大きいと思うからですよね。

 でも、実際その子がプロになれなかったとしても、まず12歳でスペインに移住したらスペイン語がしゃべれるようになる。そして、同じ夢を抱いて集まってきた世界中の友達ができますよね。小学校6年生で親元を離れて異国の地で活動するというバイタリティもある。これ、絶対に成功する人材じゃないですか。

 一般企業に就職できる歩みではないかもしれないですけど、世界中にネットワークがあって、スペイン語が話せて、ひとりで異国の地に飛び込めるメンタリティがあったらまあ、食いっぱぐれないですよね。むしろこれからの時代、そっちのほうがリスクは少ないんじゃないかなと思うんです。

 これからは60年以上の社会人生活を送る時代が到来するかもしれませんが、どっちがよりリスクが少ないかと言ったら、僕の友人の選んだ選択かなとも思うんです。一見、チャレンジは無謀だとか、安定性を欠くと言います。ただ、それはもしかしたら先行投資であり、安定とまでは言わないけど、自分で生きていくスキルを身につけていく上で有効な戦略なんじゃないかなとも思うんですよね。

安彦:確かに。将来10年後、20年後となった時にはその当時の感覚は役に立たない可能性があるということを、なぜか僕らより上の世代の人ってあまり気づいてないのかなと。子どもたちのほうがそれに敏感なんですよ。いつも「何でなのかな」と僕は思うんです。

 僕らの世代って毎月々で換算して生きている人が多いと思うんですよ。「いくらのお金が入るからこういう生活をして、いくらを払って光熱費がいくらで、この辺まで今月は余裕があるぞ」とか。「今月は厳しいぞ」ということを毎年繰り返す。だから、得た分だけの小さなサイクルでしか回って行かない。

 だけど僕はもっと長いサイクルで考えています。僕が年俸0円にしているのも投資なんですよ。0円という花柄で価値換算できない僕の時間を投資している。この挑戦が5年後に何百万となって返って来れば良いだけです。お金なのかまた別のものなのかというのはその時にならないとわからないかもしれないですけど、目の前の何かを取りに行くことを止めたくないですし、それを止めることこそリスクな気がしていて。毎月々で考えるやり方をできるだけ捨てないといけないんじゃないかなと思います。

<写真・撮影:市川 亮>

(次回に続く・・・)

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サッカー

安彦 考真(あびこ たかまさ)

生年月日
1978年2月1日(41歳)
出身地
神奈川県相模原市
身長
175cm
体重
74kg
在籍チーム
Y.S.C.C.横浜
ポジション
FW
背番号
41

乙武 洋匡(おとたけ ひろただ)

プロフィール
大学在学中に出版した『五体不満足』がベストセラーに。
卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、教育に強い関心を抱き、新宿区教育委員会非常勤職員「子どもの生き方パートナー」、杉並区立杉並第四小学校教諭を経て、2013年2月には東京都教育委員に就任。
教員時代の経験をもとに書いた初の小説『だいじょうぶ3組』は映画化され、自身も出演。続編小説『ありがとう3組』も刊行された。おもな著書に『だから、僕は学校へ行く!』、『オトことば。』、『オトタケ先生の3つの授業』など。

竹中 玲央奈(たけなか れおな)

プロフィール
㈱LinkSports スポーツデジタルマーケティング部部長。スポーツWebメディア「AZrena」や「舞洲Voice」の運営・編集とスポーツチームの管理アプリ「Teamhub」のマーケティングをメインで行う。大学時代から国内サッカーの取材活動を開始し、卒業後は数々のサッカー専門誌へ寄稿。現在も幅広く日本のサッカー現場を取材し、個人のWebマガジンで発信中。ライター/編集者/webディレクターとして、様々なコンテンツメイキングに携わっている。

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