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安彦 考真

2019/2/21

プレーの長所は「人間力」、ピッチ外での価値を見出すJリーガーの働き方

 オールドルーキーとして水戸ホーリーホックに入団したものの、1試合も出場することなく、1年で契約満了となった安彦考真選手はその後、Y.S.C.C横浜と「ゼロ円契約」を結び、待望のJデビューを狙っている。

 10年間のブランクを経て、再びプロの道を目指すことになった安彦は、いかにしてJリーガーになる夢を叶えたのか。そして、Y.S.C.C横浜と「ゼロ円契約」を結ぶ中で、どのようにプロサッカー選手として活動しているのだろうか。

編集者 竹中 玲央奈
㈱LinkSports

人間力を武器に戦った、練習生としての3カ月間

 プロを目指すために仕事をすべて辞めた後、かねてより交流があった水戸ホーリーホックの強化部長を務めていた西村卓朗(元大宮アルディージャ)に連絡を取りました。入団テストを受けさせる保証はなくて良いので、とにかく僕の「努力を見て欲しい」と。準備が整った段階で、卓朗や水戸の社長に自分のことをプレゼン、まずは練習生として参加させてもらいました。クラウドファンディングでお金を集めて、沖縄キャンプにも参加することになりました。

 当然、ブランクがあったのでそれは影響しました。練習参加した初日にいきなり1000mを9本走ったのですけど、全然追いつかないんですよ。速い順で4グループにわかれていて、最初は2番目のグループに入っていたんですけど、最後は一番下に落とされました。それでも、ここでリタイアしたら終わりだと思って、とにかく諦めずに走り続けていました。

 翌日以降の練習でも激しいメニューはあって、怪我でリタイアして行く選手もいましたが、僕は一切、手を抜かずに全力で取り組んでいました。そうして行くうちに周りから認められ始めて、コミュニケーションも取れるようになって行きました。誕生日の2月1日には、練習後にお祝いもしてもらいました。

 練習生の期間は3カ月と、かなり長かったです。すでにシーズンも開幕していましたからね(笑)。ただ、山の頂上に何事もなく登頂できても、誰も喜ばないですよね。紆余曲折があって、やっとの思いで登頂できるからこそ、達成感が生まれるんです。登頂している途中こそが人生で一番輝いている瞬間だと思っています。

 それなのに、だいたいの人は挑戦に成功してから報告しますよね。でも僕は違って、その過程を報告するべきだと思います。失敗したとしても、それはそれで過程が間違っていたのだとわかりますし、違うやり方を見つければ良いだけの話で。成功してからだったら何とでも言えますが、その過程では嘘をつけないですよね。幸いにも今の時代は、成功までの過程を発信できる場がたくさんあります。

 僕のプレーの長所は、ドリブルでもヘディングでもなく人間力です。監督がメンバー選考でどうしても残りひとりが決まらないときに、この選手がいたらチームの雰囲気が変わる、というような選手がいれば、本当の意味でチームの一員になれるのではないかと。その定義を自分なりに作ってやり続けていました。

「ゼロ円契約」のJリーガーの働き方

 サッカーの面では到底及ばないものの、僕はカズさんや中村俊輔と同等の努力をしているつもりです。例えば本田圭佑選手のファンは、本田選手のことを7割はサッカー選手として見ていて、残りの3割は行動力を見ているとします。だとすると僕の場合は、1割はサッカー選手として見てもらって、9割は行動力を見てもらえれば良いんです。

 最近では、僕のピッチ外での行動を評価してくれるJリーガーも増えてきています。サッカー選手だからできることがありますし、実はビジネスに繋げられるチャンスもたくさん転がっています。僕は「Ascenders」という会社と契約していますが、役職は「プロサッカー選手」です。Y.S.C.Cとは「ゼロ円契約」なので、Ascendersにプロサッカー選手として運用してもらっています。僕の価値が高くなればなるほど、Ascendersにとってもプラスになります。

 僕はAscendersを通してオンラインサロンなどを行なっていますが、基本的には頂いている年棒の3倍の価値提供をしたいと考えているんです。金額的な面はもちろん、企業の価値を高める意味でも、プロサッカー選手として何ができるかを考えています。最近では僕の活動を知って、自分もAscendersとプロ契約がしたいと言ってくる人もいるそうです。

 実は、社長は僕のプレーを1回も見たことがないんですよ。練習場に足を運んでもらったことはありますが、練習が終わった後に来ましたから(笑)。僕のプレーではなく、あくまで人間性を評価してくれています。

 今はオンラインスクールや、コンゴとのスポーツアカデミープロジェクトをやっていますが、参加特典として「安彦顔パス券」を付与することをアイディアレベルで考えています。これを使うとY.S.C.Cのホームゲームを無料観戦できますが、その分のチケット代は僕がクラブに支払うんです。そうすることによって、クラブの利益をチケットのプレイガイドではなく僕が生み出すことができます。

人生における豊かさは「自分で決断した回数」

 そのほかにも「スポーツプロボノサポーター」という企画を考案しました。ミズノが本田選手と契約してスパイクを提供しているのは、本田選手がミズノの広告塔となり得るからです。ただ、僕のようなJ3クラスの選手は、そういった広告塔にはなり得ません。それは正直なところ、J2の選手でも同じだと思いますし、だからこそスポーツブランドJリーガーとの契約を打ち切ってしまいます。

 そこで思いついたのがスポーツプロボノサポーターで、サポーターの方からはひと月に2足、好きな名前や数字を入れたスパイクを提供していただきます。僕はそのスパイクを練習や試合でしっかりと履きつぶして、サインを入れた状態でサポーターの方にお返しするんです。

 人間はプレゼントとしてお金を渡すことはないですが、お金をモノに変えて渡しますよね。それはなぜかというと、そのモノを買うために費やした時間、考え出したアイデアがモノに宿るからです。だからこそ、普通に買うよりも高価に感じられます。

 スポーツプロボノサポーターも同じで、僕がサポーターの想いを背負ってスパイクを履き、そのスパイクを最後はサポーターに「恩返し」として届けることによって、利害関係が成立します。この企画では、SNS上で月ごとのサポーターを募集しましたが、あっという間に12人のサポーターが集まりました。

 もちろんサポーターを集うには、ある程度のセルフブランディングは必要ですが、そういうことができる時代になってきていますし、他の選手も実践できるはずです。選手が変わればクラブも変わっていくので、そのことを早く多くの選手に気づいてほしいと思っています。まずは行動の質よりも量を増やして、僕が何かをやっていることを周りに伝えていきたいと考えています。

 僕の人生の中でのもっとも大きな行動は、仕事をすべて辞めてJリーガーを目指したことです。年齢的に考えると、高校生のときにブラジルに行ったことも大きな行動でしたが、両親には今も高校生の延長線上のようだと言われています(笑)。

 一度プロサッカー選手の道を諦めてからの10年間は、とにかく決断することを怖がっていて、世の中に流されながら動いていました。それから仕事を辞めて、もう一度Jリーガーを目指し始めてからは、自分で決断する回数がかなり増えました。

 人生における豊かさとは、「自分で決断した回数」だと思っています。決断した回数が多ければ多いほど、その人は豊かになっていきますし、僕のあの時の決断は間違っていなかったと思っています。

 今後はもっと影響力のある人たちと繋がっていきたいです。クリエイターでも良いですし、何かの分野で長けていて、ある一定の層にだけ知られているとファン層を交換しても面白いと思います。特に一度何かをやり切ってから、次のステージに進んだ人には関心が湧きます。

 元HKT48のゆうこす(菅本裕子)さんは、今は「モテクリエイター」と名乗って話題を呼んでいますが、突き抜けていてすごいですよね。そのような他業種の方と手を組んで、何か一緒にプロジェクトを進められたらと考えています。

<写真・撮影:市川 亮>

(次回に続く・・・)

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アスリート一覧

サッカー

安彦 考真(あびこ たかまさ)

生年月日
1978年2月1日(41歳)
出身地
神奈川県相模原市
身長
175cm
体重
74kg
在籍チーム
Y.S.C.C.横浜
ポジション
FW
背番号
41

竹中 玲央奈(たけなか れおな)

プロフィール
㈱LinkSports スポーツデジタルマーケティング部部長。スポーツWebメディア「AZrena」や「舞洲Voice」の運営・編集とスポーツチームの管理アプリ「Teamhub」のマーケティングをメインで行う。大学時代から国内サッカーの取材活動を開始し、卒業後は数々のサッカー専門誌へ寄稿。現在も幅広く日本のサッカー現場を取材し、個人のWebマガジンで発信中。ライター/編集者/webディレクターとして、様々なコンテンツメイキングに携わっている。

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